血が繋がっているということ、




 チャイムの音を聞いて、まず疑ったのがジャーナルなどの勧誘だった。
 次に考えられるものが三つ。
 ルーベン、賭けチェスで負かした貴族連中、近所のお化け屋敷だと思い込んでいる子ども。
 そのどれかだった。
 だがそれらも総じてチャイムを鳴らす必要がないことを、ルルーシュはわかっている。
 ルーベンをはじめとしたアッシュフォード家の者であれば、まず間違いなくはじめに電話で予定を確認してくる。
 生憎、手帳にもルルーシュの頭脳にもそんな予定は一文字たりとも書き込まれてはいなかった。
 二つ目、賭けチェスで負けた貴族が適当な人員を雇って報復行動に出てきたとしても、チャイムを鳴らすことはないだろう。
 いきなり扉を乱雑に叩き出すか、最悪窓ガラスを割ろうとするはずだ。
 故に、この案も却下。
 三つ目、近所の子供達かとも思ったが、これもまた違う。
 此処をお化け屋敷なんてものと間違える彼らは、まず背が届かない者のほうが多いだろう。
 それに、勝手に侵入しようとしたことが何度となくあった。追い払い続けているため、今では勘違いしている子どもは少ない。
 そのため、これも却下。
 ということで、考えられるものは残り二つになった。
 一つ、近所は近所でも、子どもではなくその母親の場合。
 ルルーシュは皇宮で周囲の目というものがどれほど大事なのか、良く理解していた。
 周囲の目は、好奇や監視である。
 だが、逆に利用することも出来た。その眼を、安全に回してやれば良い。
 父も母もおらず、後見人をなんとか得て暮らしている無害な子どもとしてルルーシュは周囲の主婦たちに絶大な人気を誇っていた。
 母も誇りだが、つくづく父に似なくて良かったと思う。
 彼女たちの協力を取り付けたおかげで、彼は少なくとも料理やちょっとした高いところの問題に困ることは少なかった。
 主婦の情報網と、家事能力を莫迦にしてはいけない。
 その場に長い時間いるということは、把握しているということだ。不審者がいたら、教えてくれる。
 電話ではないことのほうが多いのは、会いたいからだろうか。
 どちらにせよ、有益な情報が得られるというのに不精するルルーシュではない。
 もう一つは、定期的にやってくる警察だった。
 これは、先述の通り賭けチェスに負けた貴族がよりにもよって傭兵まで雇ってこの邸宅を襲ってきたためだ。
 すぐさま警察に連絡をしたため、無事に事なきを得たが以来子どもだけで住んでいることも考慮され定期的に警察がやってくる。
 とはいえ、此方も向こうも忙しい。
 回数は月に二度、三度程度で、それも曜日や時間帯はかなりランダムである。
 来る、ということが定期的に決まっている程度だ。
 さて。どちらにせよ、待っているものがいる以上、放置しておくわけにもいかない。
 息をついて、ルルーシュは玄関に立った。
 そこから一メートル以上はなれ、少し大きな声をあげる。
「どちらさまですか?」
 いきなり扉を開けるなど、愚の骨頂だ。
 仮にチェーンをしていても、そこからだって銃はねじ込める。
 安全を考えて、ルルーシュは離れた場所から声をあげることに決めた。
「どちらさまですか?」
 開けることはしない。必要ない。
 張り詰めた声で言う。
 返されないということは、最悪のケースは暗殺者だ。
 皇位継承権は放棄している。だが、皇族としての血はルルーシュに流れている。
 それを厭う者がいるのは事実である。
 沈黙の後、引き返していく気配があった。
 ほっと一息ついた途端、今度は足音が複数やってくる。
 びくりと、今度こそルルーシュは背を振るわせた。
 なにもされていない状態で、警察を呼ぶわけにはいかない。そもそも、そう易々と外部の者を招ける身分ではない。
 誰だと、紫色の瞳が扉を睨みつける。
 慣れたはずの大きな玄関扉は、今のルルーシュにとって大きく感じられた。
「ルルーシュ。いるのだろう」
 だが、緊張の糸を切るように、放たれた声に眼を丸くする。
「るるーしゅ!」
 張りのある声と、甘い声音。
 何故、彼女たちがここにいるのか。
 否、ここはブリタニアだし、いるのは当然だけれども。
 彼女たちが、二人そろって家の前にいるという事態など想定していなかった。
「るるーしゅ! いらっしゃるのでしょう?」
 再び呼ばれ、ルルーシュは慌ててチェーンと二つの鍵を外して、扉を開いた。
 そこには、予想していた通りの二人の姿。
「どうして………」
「ユフィが逢いたがっていてな」
「おひさしぶりです! るるーしゅ!!」
 大輪の薔薇のようでいながら、無骨な軍人を思わせるコーネリアと。
 ピンク色の薔薇のように微笑みながら、お姫様そのものといったユーフェミア。
 離宮で、特段に仲良くしていた二人の姉妹。
 唐突に現れた華やかな二人に、ルルーシュは玄関口で固まるしかなかった。



***
 連載四話眼です。今回はコーネリアとユフィ。
 長くなるので一度切ります。嗚呼、全然主要メンバーが出揃わないorz
 この皇族面子は、とりあえずルルの敵には回らない程度に仲良しです。優しいです。
 





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