液化情愛




 無理矢理口をあけられて、押さえつけられた髪を握られるが痛みに呻く暇もない。
 視線をちらと這わせど、そこにいるのは伏して動けぬ者ばかり。
 否、動くなと命じた者ばかり。
 彼らは、主の――己の命を一番に考えてしまう。
 己の命を最優先に、してくれてしまう。
 それでは駄目なのだ。
 自分がいるなら、彼らがいなければならない。
 そうでなければ、生き抜けない。
 だから動くなと命じ、命令違反は赦さないと厳重に鍵をかけた。
 濃い紫の視線が上がる。
 見つめ返す瞳もまた、紫。とはいえ、男のほうが瞳の色は若干薄いだろうか。
 笑みをたたえる、優しげで穏やかで柔らかい笑み。
 だが、裏腹に男の酷薄さも見えるようで。
 ルルーシュは、嫌悪で胸がいっぱいになった。
「飲みなさい、ルルーシュ」
 促すように、手袋を外さない方の手で頬をなでられた。
 途端、逃亡を企てた際出来た顔の青あざを強く圧迫され痛みに低く声を漏らす。
 けれども気にせず、さぁ、とだけ、シュナイゼルは促してきた。
 どう、逃げるべきだ。
 この不快感から、この嫌悪感から、この場から、この男から。
 いくつもの分岐を可能にする平行思考が、フル稼働していく。
 状況は最悪に最悪を重ねてもまだ足りぬほど。
 己の騎士は動けぬまま、床に這い伏せるしか術がない。
 後ろはグラストンナイツの一人に、腕を捻られ纏め上げられている。
 膝を折らされた格好。
 一人でこの状況を抜けきらねばならぬとわかっていて、けれど出てきた三十八の選択肢は何れも己一人では到底無理なことだった。
 屈する恥辱に、目の前が赤く染め上がっていたのはつい五分も前の話。
 屈強な彼らを退ける法など、彼は持ち合わせていない。
 否、たった一つ。
 手段はあるけれども、果たして使って良いのか迷う。
 一瞬で大勢にかけられるわけではなく、背後にいる男には確実にかけられない。
 視線があっていなければ、たとえ任意ではなく発動する形になってもかけることは難しい能力―――ギアス。
 嗚呼、なんて勝手の悪い。
 幾度となくこの力に助けられてきた身ではあったけれど、最大の窮地である今活用できないのであれば意味がない。
 腹の底で、もう一度能力に対して短い罵倒を叩き付けた。
 与えてくれた魔女に対するものではないのは、己の資質を厭うてのことか。
「ルルーシュ」
 最終通告と知って、開けた口から舌が差し出される。
 乗せられたのは、男の手から注がれた赤い液体。
 なにか知っているために、舌に乗った瞬間に湧き上がる痛烈なエグ味に柳眉を寄せた。
「残さずに。一滴たりと、残さずに、飲みなさい。ルルーシュ」
 片手ですくった程度の量のはずなのに、延々と垂れ流されているような不快感に、無理とわかっても顔を背けようとする。
 けれど、視線一つで押さえつける術を持つ男にそれは無力で、直ぐさまより強い圧力で押さえ込まれた。
「交じり合った液体を、二つに分離することは出来ない」
 一つに混ぜてしまった時点で、それはもう分けられない。
 ミックスジュースを、それぞれの果汁に分けられないのと同じ論理だ。
 混ざり合った瞬間から、それはひとつのものになる。
―――ならば、血を含まされたらどうなるというのだ。
 望んで口にしたならば、相手を己のものにする手段ともとれるが、これは違う。
 無理矢理口にさせられた場合、相手に従属することになりはしないか。
 不快と、嫌悪。憎悪を孕ませて、冷笑し続ける男を見つめやる。
 彼は、楽しそうだった。
 どこも楽しそうではないけれど、けれど楽しそうだった。
「私に内から侵入され。君の中に消化され、昇華されていく気分はどうだい。ルルーシュ」
 造花のように笑う義兄の顔に、唾でも吐きつけたい気分に襲われる。
 正気と狂喜に染め上げる、男の顔は純然たる充足感を現していた。
「愛しているよ」
 囁く声は、ルルーシュの身の内に駆け巡る。
 含まされた血に、共振して響いた。



***
 なにが書きたかったのかわかりません。(待
 うんまぁ、流石にそろそろネタもなくなりそうなのでなにか考えます。
 流血万歳、DV歓迎、リアルは本当に暴力反対ですからご安心下さい。





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