微笑みに触れる指先、




 それは、ロイドの一言から端を発した。
 ラクシャータは目を丸くし、カレンは口をぽかん。とあけてしまい、井上は目を瞬き、扇は驚いた表情で固まり。
 彼の主は、仮面でその全ての表情を隠していたが、その誰よりも驚いた顔を浮かべていた。
 
 夜間、主の部屋である。
 傍に置かれた仮面に触れようかどうしようか迷っていた男は、己の主君の考えに没頭する様をじっと見つめていた。
 彼は、綺麗なものが好きだ。
 だからK.M.F.も好きだし、その精密にして緻密な設計図も好きだった。
 一分の隙もないようにとされた、精神もある種の高潔さを讃えている。という言葉は、生憎黒の騎士団ではロイドとラクシャータくらいにしか
理解を得られはしないだろうが。
「我が君ぃ? 先程から、一体なにをお考えで?」
 キーボードが、叩かれなくなって久しい。
 どうしたものかと傾げた首は、くてんとしていて軟体動物のような色を呈していた。
 首だけが、ロイドの方を向く。
 紫色の高貴な光が、パソコンのディスプレイで浮かび上がっていた。
「我が君?」
「―――ロイド」
「はい」
 なんでしょう?
 首を再度、今度は反対側に傾けてみる。
 主からの反応は、特に無かった。失敗かと、胸中で呟くが彼はそんなこと気にした様子も無い。
「お前、アレ、本当か」
「え、やだなぁ。もしかして、疑われてたんですか? 我が君ってば」
「そういうわけじゃないが………」
「ホントですよ」
「そうか………」
「だって、殿下。嫌でしょう? 軍なんて。力で奪う、ブリタニアの象徴なんて」
 我が君がお嫌いなところへ、どうして身を寄せましょう。
 ロイドは微笑んだ。
 黒衣の裾を揺らして、傍へと立つ。
 主の視線が己へ注がれることはなかったけれど、傍に息する存在を感じるだけで彼は満足がいった。
「だから、僕は別に従軍してませんでしたよぉ? 研究させてくれる、っていうから、軍には協力してましたけど」
 個人でK.M.F.―――それも、まったく新しいフレームからの開発など、無理に等しい。
 だが、国家には税金という名の潤沢な予算がある。
 アスプルンド家を破産させるつもりならば出来なくは無かっただろうが、生憎ロイドの両親は健在だ。
 そんな無茶は、通るはずもなかった。
 だからこそ、軍に協力者という形で研究員として入ったのである。
「僕はあくまでも研究員ですからぁ〜。シュナイゼルと学友だった、ってせいもあって、わりと勝手きいちゃったり僕の意見通しやすくするため に、あの人が主任っていう地位とか、むしろ特派とかくれちゃいましたけどね?」
 いやぁ、皇族ってやることおっきぃ〜。などと、ロイドは笑うが、出た名にほんの少しだけルルーシュは眉を寄せた。
 それが、彼の義兄に対する敵愾心と。
 なにより、ロイドという己の騎士である男との共有する時間の長さを暗に語られるようでささくれ立つ悋気であるということを。
 彼自身は、認めたがっていない。
 ロイド自身も、彼が起こした僅かな反応についてとやかく言うつもりはなかった。
 わざわざ竜の尾を踏みつけるような野暮、犯す筈も無い。触らぬ神に祟りなし、とはよく言ったものだ。
「我が君の厭われるようなこと、極力やんないでいようと思って」
 思惑は、成功していましたか?
 問いかける声は、髪を撫でる指先と共に降って来た。
 優しく撫でる指は、戦う者のものではないけれど。血に汚れていないかといえば、それは確かに否だろう。
「ロイド」
「はぁい」
 主に呼ばれる名を至高とするように、甘やかに笑う。
 す、と上げられる視線を受けて、笑みは深まった。
「よくぞ。私の意思を感じた。褒めてやろう、お前の。その、私に対する忠心を」
「―――Yes,your mejesty.あなたの為でしたら」
 その笑みのために、生きているといっても。過言ではないのだから。



***
 ロイドさん、実は軍人じゃないんじゃあという疑問から沸いた文です。
 でもあの人、軍服着ないわ佐官にタメ口だわ、礼もしないわ。……軍人の態度じゃないと思うんですが。





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