カレンに予定を放課後に移してもらい、ではなにをしているのかといえばゼロとしての活動だった。 ルルーシュの一日に、余分な時間などほとんどない。 余分ともいえるべき時間は、全て睡眠時間にあてている。 睡眠不足は、集中力の低下を招く。そう易々と勝てる相手ではないのだ。 出来るだけ、コンディションは整えていて然るべきである。 ノートをとることもなく、ルルーシュは随分と深く眠っていたが授業の終わる十五分前キッカリに目を覚ました。 傍で見ていたリヴァルなどは、いっそ素晴らしいと呆れている。 教員が教室を出て、昼食に教室内が俄かにざわついていった。 「ルルーシュ、お前メシは?」 「いらない。ちょっと寝てくる」 「またかぁ? 大丈夫かよ、ちゃんと寝てないんだろ?」 「最近、入眠障害気味でな。じゃ」 あっさり言って、教室から出て行くルルーシュにリヴァルは肩を竦める。 あれだけ普段授業中眠っていて、どこが不眠症気味だと言いたげだったが、口にはしないでおいた。 屋上で、カチカチと携帯端末をいじっては逃走経路を確認する。 明日の作戦では、早期の撤退がキモとなる。 手は抜けなかった。ただでさえ、アジトを一箇所にしてしまった分逃走は楽ではない。 いざとなれば、アジトごと破壊するつもりではいるが、リスクは出来るだけ負いたくはない。 まして、やっと手に入れた黒の騎士団の"ホーム"だ。 ゼロとして活動しだすようになってから持ちはじめた携帯電話が、震える。 いくらブリタニア人の協力もあるとはいえ、黒の騎士団のほとんどはナンバーズである。 このご時勢、なにに使われるかもわからない携帯電話の複数所持はあまり良い顔をされない。 よって、携帯電話を持っているのは黒の騎士団でも幹部の者だけだった。 ディスプレイに、相手の名前が躍る。 ボイスチェンジャーの確認をしてから、通話ボタンを押した。 「どうした?」 『失礼致します、ゼロ』 丁寧な口調の男は、ディートハルトだった。 彼は、憚ることなく携帯電話を持てる数少ない人間である。 必然的に、彼からの連絡が多い。 「なにか問題でも起こったか」 予算にしろ、キョウトとの折衝にしろ、問題は起こっていなかったはずだ。 言えば、言葉を濁すようにしてディートハルトは語を紡いだ。 『実は、NACの傘下から連絡が入りまして』 「キョウトではなく、か」 『はい。個人的に、我々との交渉を計りたいということです』 「業績はどうなっている」 『桐原産業に大きく遅れをとっている形で、業界三位のサクラダイト採掘業務請負会社ですね。良い噂、悪い噂ともにたいしたものはあり ません。総資産は九十八億、上層部はオオノという男が取り仕切っております。彼は、日本解放戦線とは懇意ではあったようですが、直接 関与した、という形跡はありませんでした。あくまでも、キョウトの傘下である。ということ以上に、特筆すべきことはありません。如何します か? ゼロ』 「そこと手を結ぶ気はない。足がかりにするのであればともかく、既に我々はキョウトを内に入れている。態々、外部機関として取り入れる 必要もないだろう。大方、キョウトとは別枠という形が欲しいのだろうがそうしてやる義理はない。捨て置け」 『かしこまりました。嗚呼、それから』 「なんだ」 『ゼロ番隊隊長の件ですが』 「カレンがどうかしたか」 『なにか悩み事があるとか。ラクシャータが、からかっていた。ということを、耳に挟んだ程度ですが』 「嗚呼。その件に関しても承知している。用件は以上か?」 『えぇ。本日は、アジトにいらっしゃいますか?』 「無論だ。十六時には必ず向かう。ミーティングルームに、藤堂とカレンを呼んでおけ」 『承知いたしました。それでは―――』 「嗚呼」 言って、ブチリと切れた電話を仕舞い直す。 だが、これでまた面倒が増えたとルルーシュは息をついた。 特別扱いをしてもらいたがる企業は、後を絶たない。 キョウトの傘下ならば、なおさらだ。これを気に、伸し上がりたがる者も多い。 組織というのは、あまりにも複雑だ。それでも、これを手放す気は無い。 ルルーシュは、もう一度嘆息を零すと放課後時間を割く分の仕事をすべく経路の確認、銃器の手配を確認していった。 *** ゼロとルルーシュの、重なった円の部分というか。 日常に食い込むゼロの側面。を書きたかったのですが、ディートが出張ってしまいました(苦笑 |