正義をどこにみましょうか




「はい、じゃあスザクくんから」
 カーン。となり響くのと同時に、咳払いがひとつ。
「現状イレヴンと呼ばれるひとには、良いこと尽くめだと思う。そりゃ、まだ一部だけだけど、これを皮切りに他のエリアでも認められれば 戦争なんてなくなるはずだ」
「はい、じゃあルルちゃん」
「ありえない。ブリタニアがそんな甘いと、お前本気で思っているのか? エリア11の一部でさえ、皇位継承権、皇族特権を、ユーフェミア 第三皇女が捨てることでやっと手にしたものだぞ? 同じことをする皇族が、本当にいると?」
「この機会に、増えるかもしれないじゃないか!」
「何度も言うが、ありえない。そんな真似するくらいなら、皇位継承権争いを引いて狙われなくなった命と皇族特権で豪遊してるだろうよ」
 もっとも、引いた途端に皇族に非ずとされ殺されるか見放されて豪遊などと言っていられなくなるだろうが。
 そこまで細かいことを言わずとも良いかと、ルルーシュは伏せた。
「ルルーシュはなんでそう、世界を斜めにしか見ないんだよ」
「莫迦。お前が世界を綺麗だと信じすぎなんだ」
「世界は、努力すれば綺麗になっていく! そのためにユフィだって……!」
「スザク。ここは俺たちしかいないからかまわないが、公式の場で第三皇女殿下を愛称で呼ぶような真似はやめろよ。良識が疑われるぞ」
 騎士の評価は主の評価。
 皮肉げに言えば、スザクは語を詰まらせた。
「はいはい。じゃあ、次の反論。ルルちゃんからー」
「特区以外の人間が、他のブリタニア人に余計差別されるとは考えられないか?」
「ああ〜。それは俺も思った。この間もさぁ、いい気になるな! って、どっかの貴族がえらい剣幕で」
「だろ? 特区は一部だ。其処以外の、日本人の格差が広がるのは明白だろう。ソレに対する対策はなにか既にあがっているのか? ユー フェミア第三皇女筆頭騎士?」
「………まだ、だけど。僕は軍人だし、イレヴンだから政務には携わらせてもらえないから。もしかしたらそれも含めて、話は進んでいるかも
しれない」
「ダールトン将軍の補佐がついているから、政務に関しては問題ないのだろうな。ユーフェミア第三皇女殿下が政治経済に明るいとは聞いた ことがないが。ニーナ、彼女の最終学歴は?」
「え、えぇと。高等学校。其の時の専門は………」
「専門は?」
「福祉………」
「わかりやすいな。福祉問題も、確かに大切なことだが。エリア11は政治的にも経済的にも安定していない。そんな状況で、彼女が執務を つつがなく遂行出来ているのは、恐らく彼女の姉であるコーネリア第二皇女殿下と、その腹心であるダールトン将軍をはじめとしたブレーン がついているからだろう。だが、彼らは別に彼女ほどナンバーズに同情的なわけじゃない。仕事はするだろうがな」
「同情的って、君ねぇ!」
「同情じゃないならなんなんだ? まさか、独立させることに政治的配慮がある、とでも? とうの昔に、日本政府は解散しているし、NACも 腹の底はどうであれ、ブリタニアに恭順の意志を見せている。同情以外で、何故あんな真似をするんだ?」
 流石のルルーシュも、"兄妹揃って暮らせるようになるために思いついた"という発想を元にこの特区設立が発案 されたなど思いもしないのだろう。
 皇族という特権を持っている以上、本来ならばもっとやるべきことがあるはずだが。
 綺麗な世界ばかりを見てきた彼女には、それは違うひとがやるべきことらしい。
「ユーフェミア皇女殿下は、お優しいから………」
「だから。それを同情といわずして、なんと呼ぶのかと言っているんだ。そういう優しさなんてものはな、上にいるから言えるんだよ」
「実際、皇女殿下だしよ。それは別に間違ってないんじゃないか?」
「茶化さない、そこ。優しいだけで政治をまわされてたまるか」
「確かに」
 カレンがしみじみと頷いた。
 そんなものに振り回されて、あれこれ動かれるのは業腹だ。
 特に、トウキョウ租界に国を作るということで動き出していたのにこの仕打ち。
 彼女の敬愛するゼロは、御蔭で休む暇なくプランを練っていると聞く。
 余計なことを、と思えばこそ、ギリギリと歯噛みしてしまうのは仕方の無いことだった。
「じゃあ、喜んでいないひとだけだとでも君は言うつもりか!」
「そうは言っていない。だが、こんな見切り発車みたいなことをぽんぽんやられては、たまらないだろうと言ったんだ。スザク、国家予算、って 言葉、知ってるか? 予算会議は?」
「………ちゃんと知ってるよ。でもね?!」
「でもじゃない。お前、レセプション開くのに一体どれだけの労力がかかると思ってるんだ。嗚呼、談合なんかもきっと取り締まるのに必要 だろうな。軍の金はな、無尽蔵じゃないんだ。巨大国だろうと、ブリタニアの政治と金がどうやって回っているか、お前本当にわかっているの か? 税金だぞ? ぜ、い、き、ん。お前も名誉ブリタニア人で職業軍人ならわかっているだろう。天引きされた給料が、どこへ消えているの かくらい」
「あー。そういえば、取得税アップだったかしら?」
「それは名誉ブリタニア人の、ですか?」
「ううん。エリア11に住んでいる、ブリタニア人と名誉ブリタニア人両方〜。ゲットー以外のところからもお金はキッチリ持っていくでしょうし、 そうしたらナンバーズの日本人からもでしょうけどね。租界でも労働している日本人は多いし。あらやだ。ただでさえ労働賃金、かなり低いの に、このうえ税金がまた重くなるのか。大変」
「げぇ〜! 俺、今月バイト入れまくったから其の分給料差っ引かれんのかー」
「ほら。身近にいるじゃないか。特区で迷惑蒙っている人間が」
「ちょ! コレは別に特区とは関係」
「あるんじゃないの? だって、こんな急に税金アップが可決されるなんてありえないもの。水道管も新しく引かなきゃいけないでしょうし、 道路の整備も必要よね? あ、電気もか。ガスとかは言わずもがなだし、企業はどこも入りたがらないでしょうから、推奨金も必要かしら?  大変ねぇ? いっぱい決めることがあって。本当なら蹴っ飛ばしちゃいたい案件なんでしょうけど、ユーフェミア第三皇女殿下直々のご命令 ですものね? 断れるわけもないし?」
 スザクの言葉を遮ったカレンが、滔々と語る。
 彼女自身、ルルーシュは好まないほうに含まれるがこの件にいたっては味方せざるをえない。
 ゼロを疲労困憊させる原因の案件に、どうして味方出来ようか。
「本来なら、十年二十年計画なんだろうがな」
 それを、ただの数日で、おまけに誰にも相談されていない状態で推し進めようというのだから。
 恐るべし、皇族の権力というものだろうか。
「と、まぁ。俺たちたかが一介の学生がディベートする必要もなく、これだけ大量の問題点が見つかったわけだが」
 ロイヤルスマイルが浮かべられる。
 スザクは語を詰めたまま、それでも一歩も引き下がらない。
 引き下がっては、負けだ。それは赦されない。
 彼女の騎士として、彼女の意見をなによりも賛成している身として。
「さて、ユーフェミア第三皇女殿下筆頭騎士枢木スザク少佐殿? 俺たちにもわかりやすく、納得できる形で、今回の特区についてご説明 願おうか」
 ただ純粋に垂れ流される善意など。
 悪意とどう違おうかと。
 優雅に腰掛けた王は、彼の信じる善意と同じ純粋さで問い掛ける。
 さぁ。
 正義とは何処にありや?
 


***
 特区成立から、こういうディベートがあっても良いんじゃないかと。
 アッシュフォード学園の偏差値とかって、どれくらいなんでしょうね?
 あと、うっかり皇位継承権放棄をルルが知っていました。そういう情報は公開されても良いと思ったんだ!! ユフィの慈愛精神を売り 物にするのなら!!





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