Tu fui, ego eris.




 駄目でした。
 守りたいひとが、いるんだ。って、いわれました。
 彼が守りたいひとを、私も知っていました。
 その人は、とても儚くて優しくて可愛くて―――彼以外、いないんです。
 沢山の優しさに囲まれているけれど。
 でも、選ぶとしたら、ただ彼女は彼と一緒にいたいだけで。彼は彼女の願いをかなえてあげたがっていて。
 私と一緒だと思ったら、もうそれ以上なにも言えなくって。
 仲間になってくれって、もう言えなくって。
 すいません。
 もしかしたら、あなたのとても心強い味方になりえたかもしれないんですけど。
 黒の騎士団にとって、とても心強い味方になりえたかもしれないんですけど。
 でも私には、彼を彼女から引き離すなんて出来なくて。
 だから、駄目でした。
 彼を仲間には、引っ張り込むことが出来ました。
 すいません、ゼロ。
 苦笑交じりのカレンに、静かに聞いていた仮面の男は笑った。
 否、その顔を見ることは出来ない。
 けれど、そう。
 笑うような空気を、其の身から滲ませたのだ。それで充分、表情は伝わる。
「君が謝ることではないだろう?」
 断った男が悪いとは、言えないが。
 君が悪いせいでもあるまい。
 そう、被りを振るゼロに、ぺこりとカレンはお辞儀をする。
「私、考え無しでしょうか」
「何故だ?」
「日本人じゃなくても、弱い人はみんな。ブリタニアを憎んでいるのではないかと、思っていました。ブリタニア人でも、優しい世界が一番欲しい んじゃないか、って。思っていました」
 間違いではないかもしれないけれど。
 でも、それ以上に。
「ブリタニアが滅ぶより、なにより。願うこと、あるんですよね」
 私達の願いは、祖国を取り戻すこと。
 国を取り戻して、名前を取り戻して。
 そして。
 やさしい世界を、生きること。
 そのために、優しい世界を、作ること。
 万人に認められる夢だと、思っていた。誰だって、平和に暮らしたいだろう、優しく笑いたいだろう、血なんてみたくないだろう。
 ずっと、そう思っていた。
 そう思っていたのだ、けれど。
「―――優しい世界を求めない人間など、いないさ」
「ゼロ」
「問題は、誰にとって優しいかだな。弱者に優しい世界、強者に優しい世界。後者ならば、今の世界だが、余計悪いか。他者を踏み躙っても、 非難を浴びることのない世界だ。むしろ誉めそやされる。今以上に、そうなれば――」
 助長する莫迦共が、今より沸いて出てくることだろう。
 強者に優しい世界とは、弱者に優しくない世界だ。
 弱者に優しい世界は、強者にも優しいというのに。
「目の前しか見ていないとも、言える。だが、お前が仲間にしたかった男は、優先順位にその守りたいものを選んだのだろう」
 優しく、儚く、可愛い少女に、心配をかけない道を選んだのだろう。
 ゼロは言って、ほんの僅かにソファへ身体を傾けた。
 直ぐに弾かれるのは、既に身体を全て預けていたからかそれとも彼の貧弱な身体が故か。
「それだけの話だ」
「はい―――。失礼します、ゼロ」
 エア・プッシュ音を響かせて、カレンが出て行く。
 ベッドに寝そべり、欠片も会話に参加していなかった魔女は部屋がロックされる音が響くのと同時に瞳を開いた。
 衣擦れの音を立てて、横向きに向き直る。
 ゼロは動かない。
 思案のまま、固まっているように見えた。
「嘘吐きな男だ」
「起きていたのか。盗み聞きをするとは、相変わらず趣味の悪い女だ」
「なんとでも言え。私がいるのをわかっていて、会話をするお前達が悪い」
「聞かれて困るでもない話を、わざわざコソコソする必要が無いだろう」
 さらりと言い返され、C.C.はチーズ君を抱きしめた。
 腕の中の感触が気持ち良い。
「嘘吐きな男だ」
「嘘じゃないさ」
「それが嘘だと言っているんだよ。ルルーシュ」
「は、それは誰のことだ?」
 仮面を取り払うことなく、ゼロは視線をベッドへ向ける。
 寝そべったままの女は動かない。
 動く必要も無いと、言うかのようだ。
「私はゼロ。この身にはなにもない。守るべきは弱き人々、挫くのは強者を謳い驕るブリタニア。そうだろう? 我が共犯者」
「嗚呼、そうだったな。愚かな私の共犯者」
 ここにいるのはゼロだから。
 だから嘘などついていない。
 ゼロの最優先事項は、ブリタニアを倒しやさしい世界を築くこと。
 だから―――、少しだけ申し訳なく思うこの心にも、蓋をしよう。



***
 ルルーシュの最優先事項はナナリー、ゼロの最優先事項は打倒ブリタニア。
 使い分けなければ、いつかつぶれると思いつつ。微妙に使い分けられない"ルルーシュ"の甘さ。






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