勘の鋭い奴は苦手だ。 それが、ルルーシュ・ランペルージがリヴァル・カルデモンドに対し笑いかけたはじめてのことだった。 気がついたのは、きっとたまたまだ。 たまたま、昨日は指を切った。 それを咥えた。 当然、口の中に血の味がする。体液の味、これに味なんて言って良いものかわからなかったけれど、まぁ味はする。 味がすれば、馨りもする。 馨しいはずもない、血の匂い。 登校して、自分の席について、すぐ。 既に登校していたルルーシュから、血の匂いを嗅ぎ付けた。 「ルルーシュ! お前、なにやってるんだよ!」 慌ててルルーシュの片腕を引っつかみ、ずんずん保健室へ向かって歩いていく。 自分も然程体育会系ではないが、彼よりはマシだ。 なにより、バイクのメンテにはなかなか体力がいる。 「ちょ、ま、待て、リヴァル!」 「待てるか莫迦。なんで怪我してるのに、放ってきたりしてるんだよ!」 「言うから待て! 保健室はまずい!!」 どうやら本当になにか事情があるのだろうと感じて、ルルーシュの腕を握ったまま足を止めた。 痛む場所がそこなのだろう。 脇腹を押さえて荒く息をつく姿は、痛ましい。 「いや、ちょっと。ヘマをして」 「珍しいな、ルルが。逃走経路とか、用意してそうじゃん」 「用意してる。だが、其れ以上撒こうと思ったら学園に飛び込むしかなかったんだ」 「うわ。それでか。随分求愛行動の烈しいストーカーだな」 「二週間前の賭けチェスの貴族に、雇われたみたいだが?」 「………滅茶苦茶俺のせいじゃん! 言えよそういうことは!!」 「ミスをしたのは俺だ」 「その原因が俺だろ?!」 二人、止まっていたが、予鈴が鳴り始めたことで爪先を変えた。 ナイフ傷は、通報される。 賭けチェスなんて道楽にもなりはしないだろうが、まさか負けた腹いせに人を雇って子供を脅したなんて知られれば社交界で良い笑いものだ。 そちらで悪感情を増大させかねない。 ならば答えは一択、事を秘密裏に処理してしまうこと。 「自分でやったのか? 怪我」 「そりゃあな。まさか咲世子さんにしてもらうわけにもいかないだろう」 「意外。ルルーシュって、闇医者とかも知り合いいるかと思った」 「お前、俺をなんだと思ってるんだ」 漫画やテレビの見すぎだといえば、違いないとリヴァルは笑った。 「なー、ルルーシュ」 「どうした?」 「気付くな、って言えば。気付かないでおくからさ。あんま心配、かけんなよ」 「―――善処するよ」 「よろしく、悪友」 「こちらこそ、悪友。嗚呼、それでも―――、」 言って、くつと喉奥でルルーシュは一つ笑い。 はじめて、皮肉の含まれていない、かといって上流階級特有のロイヤルスマイルでもない。 ルルーシュ・ランペルージの笑顔を、彼は見た。 それに対して、特段その場でリヴァルがなにかを言ったわけではないけれど。 貴重なものをみたと、後に零していたことだけは、ここに記しておこう。 *** 悪友悪友。莫迦やる友達が居るのはいいですねー。 ルルの場合、逃走経路とかを確実にしていても、走る体力が無いからそこが問題だと思います。 |