―――黒の騎士団に、垣根は無い。 そう、求めるものが、優しい世界ならば。 ブリタニアを打倒する意志があるならば。 黒の騎士団は、誰であろうと受け入れる。 それが例え、ブリタニア人であろうがナンバーズであろうがEUであろうが中華連邦であろうが。 垣根は無い、関係ない。 学生であろうと、興味はない。 ゼロの言い分は、それだった。 なるほど、正しい。彼の言い分は、間違っていない。 そうして大きくなっていったのが、黒の騎士団だ。 勿論中には内通目的の者もいるだろうが、ゼロはそういった方面に恐ろしく鋭かった。 加えて、現在はアジト内部はディートハルトと藤堂が眼を光らせている。 お人好しのきらいのある扇よりも、彼らの攻略は難しいだろう。 カレンはため息をついた。 実際、説得にかけられる時間なんて余り無いようにも思われる。 繰り返すように聞くのは、駄目だ。 かといって、長い間を置いて繰り返し聞くのも不自然だし、なによりたかが学生一人を仲間に引き込もうというのに時間をかけるのは 余りにも非合理的でさえある。 仲間に引き入れる、其の前の段階でカレンは躊躇していた。 ここより先はフロントライン。 体勢をひっくり返そうというのだ、生半可な覚悟は既にしているとしても、このひとつのことで自分の立場が暴かれかねない。 自分が暴かれれば、黒の騎士団が芋ずる式に引っ張り出されるのは想像に難くない。 なにも、自己を過信してのことではない。 それだけの価値が、黒の騎士団エースパイロットの彼女にはあるのだ。 逆を言えば、それだけの責任を負っていることになる。 呼気を抜くように息を吐いて、机に肘をついた。 暢気にリヴァルと喋っているルルーシュが、なんだか憎たらしい。 ここまで悩んでいるのは、誰のためだと思っているのか。 ため息がもう一つ零れた。 「カレン? どうしたの?」 「え? あ、なんでもないわ……」 シャーリーの声に、顔をあげると儚げな風のまま首を横にした。 そう? 首を傾けるけれど、そのまま納得したように自分の席に戻っていく。 もう一度、カレンはため息をついた。 背負うと決めた、修羅を歩むあの人について歩くと決めた。 決心はそこで、強固なものとなった。揺らぐことは無い。 ただ、違うところで申し訳なさは常に感じている。ひとはそれを、引け目、や、負い目と読んだのだったか。 「元気がないな」 「そう? 今日は大分体調が良いのだけれど」 さりげなく傍に立つ彼に、向ける顔に先程の儚さは薄い。 バレているということはなくとも、察するくらい彼はしているだろう。 ならば演技は無駄なだけだ。 「あなたこそ、体調は大丈夫?」 「だからあれは過労だって。会長にコキ使われて、よく君も無事だな」 言外に滲ませる皮肉に、眉間に皺が寄る。 けれど構うことはない。 どんな目的か知らないが、とりあえず一発ぶつけてみなければ始まらない。 カレンは、自分がどれだけ直情型なのか理解していた。 戦う時の冷静さとはまた別なところで、芯は真っ直ぐなのだ。 兄の直人は笑っていてくれた。ならばそれは、褒められるべき美点で良い。 「話があるの。お昼休み、一緒にどうかしら」 「嗚呼、ごめん。ちょっと昼休みは先約があってね。放課後はどうだい?」 「生徒会は良いの?」 「昨日でほとんど片付いたって。な、そうだよな。リヴァル?」 「へ? あ、ああ。うん、大丈夫だぜー。カレンも、さんきゅな」 何も知らず労ってくれる彼に、ありがとう。と短くお礼を言う。 純度百の、礼だった。 日常が在るということが、どれだけ貴重か彼女はよく理解している。 だからこそ。余計に、良いのかと迷っているのだけれど。 今は、仲間が欲しかった。 腹立たしいことに、彼が授業を手抜きしていることはよくわかる。 正直に言えば、黒の騎士団にインテリは少ない。 教育制度がブリタニア人にとって優しいものばかりということは、反対をいえば余程でないかぎりナンバーズには真っ当な教育が受けられない ということだ。 ゲットーでナンバーズとして生きる多くの日本人には、小学校で止まっている者が多い。 現状、そこまで困らないのはブリタニアの支配が十年未満で済んでいるからだ。 これから先、この支配が続けばもっと多くの未就学者が増える。そうなってしまえば、唯でさえ少ない職が更になくなる。 食べるためには、ブリタニアに尻尾を振るしかない。 なんでもかんでも、ブリタニアの言うことには従うしかなくなってしまう。そうしなければ、生きられない国が出来上がってしまう。 そこでは、日本という名前は最早失われていることだろう。 だから出来るだけ早く。 自分達は、日本を取り戻す必要があった。幸いこの国は、惰性であろうとなんであろうと高校までの就学者が多い。 十年未満ならば、なんとか巻き返しがはかれる。というのが、ゼロの意見だった。 あと数年で、なんとしてでも形にする。 その為には、今は一人でも多くの仲間が必要だ。 危険性は、百も承知。 それでもカレンは、ルルーシュに直接聞くことに躊躇う余裕をこれ以上持つわけにはいかなかった。 *** ルルがわざわざ接触してきたのは、ゼロの時に相談されたからという裏側が御座います(苦笑 嗚呼、予定していたものが二分割………orz |