けひょん、けほけほ。 妙な咳だと、リヴァルが笑った。 シャーリーも、遠巻きに心配そうな視線をやる。 「ちょっとお、ルルちゃんってば風邪?」 「あの。大丈夫……?」 薬持ってこようか? 恐る恐る告げるニーナに、ルルーシュは笑って制止の形を手で作った。 「いや、大丈夫。おかしいな、会長が溜め込んだ無理がたたったか?」 「って! 私のせいにするつもりぃ?!」 「そう言われたくなかったら、ちゃんと仕事をしてくださいよ」 茶化すように言って、笑いが沸く。 けれど、カレンだけは瞠目して、それから真っ青になっていた。 もう一度、咳を漏らす。 けひょ、という、矢張り間の抜けた音に、彼女は確信を抱いた。 「ルルーシュ君。ちょっと、いいかしら」 「どうしたんだ? カレン。なにか資料が必要に?」 「いいえ。違うけれど、私もちょっと気分が悪くて、折角だから、一緒に保健室へ行かない?」 「誘わなくても。君一人で行ってくればいいじゃないか」 「おいおいルルー。いや、わかってたけどさ、お前がそういう奴だって」 「大丈夫、カレン。良かったら、私が……」 「大丈夫よ。さ、行きましょう、ルルーシュくん」 彼女にとられた手に、ギリリと力が込められる。 万力というほどではないが、痛みを感じるレベルだ。 思わず顔をゆがめれば、やはり具合が悪いのだろうと勘違いされて生徒会室を追い出された。 「なんなんだ、まったく。ナナリーがいなかったから、良かったものの」 いたら確実に心配をされていた、と、不機嫌そうにルルーシュは呟いた。 妹へ心配をかけることを、彼は極端に嫌がる。 わかっているわよ、と、短くカレンも舌打ちをした。 もし妹があの場にいたら、あんな変な咳でさえ、彼は押し殺しただろう。 そうであったならば、彼女は気づかなかったはずだ。 「ルルーシュ君」 「なんだい?」 「いつから?」 「なにが」 「いつから、毒なんて飲んでるの。あなた」 「………」 「私、知らないわ。ランペルージなんて、貴族知らない。ブリタニア本国に本家があるにしても、シーズンにさえ一度も顔を出さない貴族なんて、おかしいわよね」 シュタットフェルト家の令嬢たる、私が知らない。 社交界にも、一度として顔を出していない。 病弱となっているはずの、自分でさえシーズンに一度は出ているのに、それも無い。 噂話としても、ランペルージ家という名前は聞いたことが無い。 だからあなたは、貴族ではないはず。 でも、それならば何故。 「どうして貴方、貴族御用達の毒薬なんて常用してるの。その咳、肺にくるやつよね」 「………、詳しいんだな」 「暗殺にも使われるわ。継母が、私に飲ませたがってたの。生憎、ドジなメイドが盛ってたシュガーポットひっくり返してくれたおかげで事なきを得たけどね」 さぁ答えて。 真っ直ぐな視線が、ルルーシュを貫く。 髪を下ろして、大人しくしている外見とは裏腹に彼女の瞳は何処までも強い。 内側の強さを、示すようだ。 「飲んでるからだよ。もういいだろう」 「……! 良くないわ! あなた、なんだってそんな真似を……!」 「必要だからだ」 「必要……?! どうして!」 「それを君に説明する理由が、どこにある」 冷ややかに線を引かれ、カレンは語を詰まらせた。 彼は、同じ生徒会のメンバーで。 あまり気に入ってはいない、人間で。 それ以外、なにもない。 偶然同じ学校に通う、偶然同じ生徒会のメンバーであるというだけだ。 「気になっちゃいけないの」 「そこまでは言ってないさ。ただ、余計な詮索は淑女にあるまじき行為だと思ってね」 「……そうね。気をつけるわ」 話はそこでお終いだった。 毒薬を、常用し続けている。 それは、取りも直さず何かと戦い続けているということだ。 あんなものを常用し続けていれば、必ず身体を壊す。 もしかしたら、ブリタニア人特有の肌の色の白さ以上に白い理由は、それかもしれない。 自分を緩やかに殺してでも、戦わなければ守れないもの。 何であるか、カレンは知らない。 けれど、戦う側にいるのは彼女も同じだ。 内側の戦いではなく、レジスタンス行為という、外に発露するものだけれど。 彼女も、戦っている。 気に食わなかった、気に入らなかった、癇に障ったし、癪だった。 けれど、少しだけ。見かたを変えられる気がする。 「………ゼロの考え方とか、すき、かな」 ブリタニアの中にも、ゼロに賛同する人間がいるのは事実だ。 それとなく、聞いてみようか。 怪しまれない程度に。それとなく。 もしかしたら、騎士団の仲間になってくれるかもしれない。 カレンは、とん。と軽やかに一歩踏んだ。 *** カレンがルルをゼロと気付くまでを書きたかったのですが。 うーん、シリーズにするのはちょっとアレでしょうか。遠まわしに死にネタになってしまいそうですし(悩 |