追い出された夜




 波打ち際を素足で歩く。
 遠く、近くで波打つ音が聞こえてきた。
 幾重にも、幾重にも。
 触れる砂の感触が、くすぐったくもある。
 夜、もうすぐ日は昇るけれども、それはまだだ。
 足を静かな波が触っていく。
 白い漣は、寄せて、返し、寄せていく。
 スニーカーを両手で持って、歩く。
 こうして外を出歩けるのは、この時間だけだ。
 だから、この時間のこの空気のこの世界を。
 堪能するかのように、彼は歩いていた。
 振り向く必要もなく、足跡が砂浜に残っていることだろう。
 満ちていた海は、少しだけ引いている。
 今、白浜を歩ければ足に沢山の砂がつくはずだ。
 楽しくなって、また歩いた。
 全ての感覚は最早遠く、触れる海水の冷たさが頭の芯を少しだけ冷やす。
 靄がかかったような感覚にも既に慣れ、こうして世界は空転している。
 塩の匂いは、何故かいつも感じない。
 一帯に漂う空気に、身が馴染んでしまっているせいかもしれない。
 日が昇ってくる。
 夜色を押し上げるようにして、赤色のような世界の光。
 紫の入り混じる空。
 きれいだ。と、呟く声は声帯を震わせることなく口唇でのみ紡がれたものだった。
 静かな世界を、崩したくは無かったのだと。
 彼の後ろをついていく者には、わかっていた。
 彼は、この空間が、この世界が、好きだった。
 静かな世界は、彼を傷つける何者も存在していないとわかっていたから。
 砂を踏む音さえ微かで、そんな中を波打つ音ばかりが支配している。
「泣けない、から。どんなことがあっても」
「―――」
 日が差し込んでくる。
 空は青かった。
 雲はいくらかあったけれど、上空では風が強いのかゆっくりと、けれど視認出来る速さで流れていく。
 同じような速さかと思うほどのスピードで、太陽が昇ってきていた。
「もう少し暗いほうが、良かったかもしれないな」
 それこそ、永遠に夜であったほうが。
 語尾を上げもせずに、疑問符をつける様子もなく、疑問系で言葉を投げつけた。
 けれど、彼から帰るものはない。
 どれほど、そうしていただろうか。
 そっと、彼が手をとった。
 少しずつ顔を上げれば、いつもの優しい瞳で、微笑まれた。
 仕方なさそうに、微笑み返すしか。術は思い当たらない。



***
 誰が誰かは、ぼやかしてあります。
 誰でも、一応当てはめられるかなぁ。
 最初はなんかもう病んで壊れたルルーシュが波打ち際を歩いてくすくす笑い、それを追いかけるスザクが書きたかったのですが。
 そんなん、私以外楽しくないと思って却下しました。(お前は楽しいのか。・応。
 





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