気絶する時、人の意識は白いのだと。 後からになって気がついた。 はじめ、少し気分が悪かったのだ。 寝不足続きなのだから、仕方が無いかもしれない。 授業中のほとんどを睡眠に費やしてはいたけれど、それだけでは矢張り足りない。 カレンは既になんとか慣れたようだが、根本的にルルーシュには体力が圧倒的に足りなかった。 睡眠は、貴重な体力回復である。 欠伸を噛み殺しながら、伸びをした。 しかし、頭の中にかかる靄が晴れることは生憎無かった。 気持ち悪さが、どんどんと押し寄せてくる。 嘔吐感がせり上がり、口元に手を当てる。 其の頃には、目の前がぐるぐるチカチカ、明らかに普通ではありえなかった。 眩暈と、自分が真っ直ぐ立っていられない感覚に陥ってルルーシュは困惑した。 流石に助けを、と思っても、声が出せない。 気持ち悪くて、それどころではないのだ。 耳鳴りが酷い。 遠くで、なにか動く音を耳が勝手に拾うけれどそれどころではない。 ―――ふつ。 気付いた時には、目の前に天井があった。 「本当に、驚いたんだからね!!」 スザクの怒り声に、眉を寄せる。 気付いて、すぐに彼はトーンを落とした。 廊下で普通に話していたら、反応が悪くなり。 どうかしたのかと問いかけようと思ったら、そのまま膝をついて仰向けに倒れたのだ。 かなり衝撃があったはずだが、本人は真っ白な顔のまま動かない。 貧血の症状だと気付いて、とりあえず足を高くするために鞄を積み上げていたらいくらもしないうちに意識が回復したが、そのまま有無を 言わさず保健室行きとなった。 ルルーシュがサボタージュの常連であることは教師陣も理解していたけれど、流石にこれをサボりとする者はいない。 「ああ、悪かった。悪かったから、怒るな」 「怒るよ! そんなに毎晩、なにやってるの」 「色々。お前と違って、俺は忙しいんだよ」 「またそんなこと言って………」 まったく。 憤慨する様子はあるが、本気で心配したから怒っているのがわかり、ルルーシュは大人しく怒られることにした。 貧血を甘く見る気はないものの、とりあえず回復すれば後は問題はないのだ。 血の巡りを良くするために、足を高くして、身体を温めるためにベッドに入るくらいで、応急処置は終了である。 「君が倒れて、どうするの。僕は嫌だからね、学校に来たら、君が居ないなんて」 「俺も嫌だな。まだ、卒業まで大分ある」 退学する気はないよ。 笑ってやれば、そういう問題じゃない。とまた怒られる。 「約束するよ、スザク。だから、お前も約束しろよ。いつかみたいに、はぐれない、って」 「あれ、君が逸れたんじゃないか」 「お前だろ」 「君だよ」 言い合いになりそうになったが、それでもお互い顔を見合わせて噴出した。 七年前、確かに赤い戦場跡で分かれてしまったけれど。 再会出来た今、小さな問題でもある。 「うん。ちゃんとクラブハウスにいてね。危ないことも、しないでくれると嬉しいんだけど」 「善処するさ」 「ルルーシュ」 「はいはい。お前もしつこいな」 軽口を叩き合って、笑う。 平穏な生活、平穏な日常。けれど裏側にある、血と殺戮。 知っているが故に、二人は同時に同じことを思っていた。 どうか、そんな世界にはいないで。 どうか、お前だけは、君だけは。平和な世界を生きていて。 どうか、君だけは、お前だけは。優しい世界で生きていて。 どうか、お前だけは、君だけは。 どうか。 それは正しく、祈りだった。 *** 貧血で倒れるって、こんなんですよね。 ここ最近、二ヶ月に一度は倒れているので今月は無事に乗り切りたい気持ちでいっぱいです。 |